建設需要の落込みが続く中、建設業界では新規事業を通じて雇用を維持しようとする流れが強まっています。特に地方では、過疎・高齢化による担い手問題等から農業が疲弊しており、建設業が遊休化している労働力と機械を活用し「帰農」する流れが生まれています。

私ども和仁建設においても、2000年から農業に参入していますので、その概要をまとめてみました。これから農業に参入を検討されている方々の参考になれば幸いです。

農業進出のきっかけ

地域の農業従事者の高齢化による後継者不足や耕作放棄地の増加により、故郷が消滅してしまうのではないかとの危機感を抱き、2000年から農業に参入した。

また、保有する建設機械、測量機器、倉庫、コンテナハウス、車両、GSスタンド等が、農業に有効活用できる点において、建設業からの農業への参入にはメリットがあると考えた。

沿革

2000年地域内の耕作放棄地の再生や耕作を手がける。
2002年4月堆肥センター(現 奥飛騨エコセンター)が本格稼働を開始する。
有機堆肥の有効活用を開始。
2005年9月リース特区による特定法人の認定を目指して事業展開をする。
耕作放棄地以外の農地への法人参入は認可しないとの理由により認可されず、和仁松男が認定農業者となり、農地利用権設定を行い農業を行う。
2007年11月米・食味分析鑑定コンクール国際大会において金賞を受賞。
※以降、12回の金賞受賞を達成(2023年現在)
2009年2月農業生産法人株式会社和仁農園を設立する。
和仁農園ウェブサイト
2010年4月株式会社和仁農園が認定農業者の認可を受ける。
2012年11月米・食味鑑定士協会 国際 名稲会(ダイヤモンド褒章)会員 認定

取り組みについて

美味しさを追求

当地域は数十a以下の兼業農家がほとんどであり、中山間地で水田1枚が15a程度である。

中山間地の米作りは環境が良くないために生産原価が高くなるので、それに見合った価格での売ることを考えた。満足して食べていただくために美味しさを追求することにした。

生産技術については、日本農業新聞等で習得した。

建設業で培った管理システムの活用

建設業で培った管理システムに基づき農業生産を心掛けている。工程管理、品質管理、原価管理、安全管理、PDCAの励行を推進している。

ICTの導入

当社では、稲作業務管理システム「『らくかる』管理人」を活用して、稲作の工程管理を行っている。同システムは、建設現場で培った工程管理のノウハウを稲作の工程管理に取り入れるために、自社で開発したものである。水田の位置情報や栽培履歴、食味値、収量等を見える化することが可能となっている。

また、自動操舵システム搭載の農機具や農業用ドローンの導入をはじめ、岐阜県大垣市に本社を構える未来工業(株)との共同開発により、水田内除草無人ボート「草取まつお」や、水田水位管理省力化システム「水田当番」の開発、運用、販売も行っている。

農作業のマニュアル化

従業員間で作業内容に差が出ないように、作業内容のマニュアル化を行っている。作業内容をマニュアル化することによって、生産コストの削減や生産物の品質向上が実現した。また、各作業に関する労働災害防止のための具体的な指示も記載されている。

美味しさの見える化

食味値や味度値の分析を行っている。米の食味値と味度値を基準に競い合う「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」において、当社は2007年から国際総合部門での金賞を複数回受賞している。同コンクールの実績が評価されることにより、知名度の向上や販売の促進にもつながっている。

産地の見える化

「飛騨高山おいしいお米プロジェクト」を実施している。同プロジェクトは、JA飛騨、高山市、県内の米農家21軒が集まり、プレミアム米の認定や生産を行っている。

苦労した点

作物の選定

参入当初は、フルーツトマトやトウモロコシを生産していた。しかし、野菜の生産はあまり農地を要さないため、当社が保有する農地が余ってしまった。保有する農地を余すことなく活用するために、野菜から米の生産に切り替えた。

初期投資が大きい点

農業は、生産機材の開発費等、初期投資が多く、黒字化するまで時間がかかることが課題である。
当社が農業に参入して、経営が軌道に乗るまで約4年かかった。

こだわり

地域循環システムを取り入れた新エコロジー農法

奥飛騨という緑豊かな地域の環境を、昔ながらのまま守っていくことを目指しており、耕畜連携による循環型社会の構築に基づいた有機栽培を徹底している。

楽しい農業

大型の機械で行う農業に、若者や地域の方々は興味を持つと考えられる。いわゆる3Kを解消し、若者に対してイメージの悪い農業をいかに楽しくやるかを追求している。

  • 収穫の喜び
  • 徹底的に機械化する(機械が好きな若者にアピール) 
  • 米・食味鑑定コンクールの入賞(成果の証明、受賞の喜び)
  • 農業を探求する(提案、試行、更新、PDCAサイクル)

慣行農法との差別化を追求

  • 昔の農業に戻る・原点に返る(気温特性による差別化) 
  • 収量に関する差別化(適正収量を厳守することによる差別化)
  • 施肥量と有機堆肥の使用方法に関する差別化
  • 水田の水管理による差別化(8つの重要ポイント)
  • 害虫予防の消毒や低農薬による差別化
  • 水田の分類による、収穫米の等級別販売による差別化
  • 収穫米の保存方法による差別化
  • 収穫米のDNA鑑定と残留農薬検査による差別化

成果について

  • 農業分野への進出による雇用の創出
  • 建設技術や重機を活用した圃場整備
  • 耕作放棄地の解消による故郷の景観の維持
  • 良食味米の生産を目指したことによる地域稲作の活力向上
  • 飛騨産米の認知度、及び評価の向上
  • 行政、JA、地元農業者との密接な連携の構築
  • 建設現場から出た枝葉等の残渣も使用した有機堆肥の製造
  • 製造した有機堆肥を圃場に使用することによる循環型地域システムの構築

※詳しくは、和仁農園ウェブサイトをご覧ください。